おだわら動物病院 杉浦雄一院長(神奈川県小田原市)
開業後10か月、獣医師5人、看護師4人、パート1人、清掃スタッフ3人
Q: 規模が大きな病院からスタートしたメリットをどのように感じられているでしょうか。
杉浦院長: 承継開業してまだ10ヶ月ですが、この10ヶ月の間に2つの悩みがありました。「もう1人、勤務医が欲しい」ことと「駐車場の余裕がない」という、2点です。
地方での勤務医採用は難しい状況になっていますが、求人サイトで募集をかけたところ、1人の勤務医を採用することができました。これで獣医師5人体制の病院になりますが、今の来院数から考えると、もう1人勤務医を増やしたいと考えています。
また、このおだわら動物病院は国道1号線に面していて、ただでさえ交通量が多い場所です。当病院の来院者の車で大渋滞が起きて、警察から苦情が来るほどでした。
この駐車場についてもどうしようかと悩んでいたら、たまたま国道を挟んだ反対側の空き地が売りに出されました。20台くらいが駐車できる土地ですが、銀行が喜んで融資してくれまして、購入を即決しました。
Q: 新規開業で10ヶ月目となると、来院数をどう伸ばすかが多くの院長の悩みの種だと思いますが、承継開業スタートとでは、随分と悩み事が違うことがハッキリしているように思われます。
杉浦院長: そうです。勤務医を雇うとか、駐車場の土地を買うというのは、開業後10年、20年経った先生がやれることだと思います。開業後に起きる課題も、新規と承継では明らかに違います。これらの課題を解決できたのも、規模が大きな病院を引き継いだメリットだと思います。
私は当初、自分1人でやれる規模の病院を承継候補として希望していましたが、実際に承継した病院は地方都市の規模が大きな病院でした。勤務医時代に承継開業でうまくいっている先輩から「承継ではエンジンが大きいところからスタートする方が伸びるよ」とのアドバイスを頂いていましたので、そのアドバイス通りだったと今は実感しています。
Q: 開業場所については、首都圏か、都市部を希望される方が圧倒的多数です。
それは奥様が地方に行きたくないというので、承継開業を断って首都圏で新規開業するというケースが多々ありました。そこで私は、首都圏・都市部と地方都市での開業では「不動産コスト」において大きな違いが出てくることを指摘してきました。
どういうことかと言いますと、3大都市圏での新規開業は、大多数がテナントスタートです。テナントの土地は大家さんが売ってはくれませんので、何十年と病院経営を続ける限り、テナント料を支払わなければなりません。
一方、地方都市で承継開業すると、前院長が完全リタイアするための事業承継であることが多く、病院建物、駐車場から自宅まで譲り受けることができます。不動産を譲り受ければ、将来的には自分のものになりますから、また承継で第三者に譲る時には、売却益や家賃が入ってくることになります。この不動産コストは、開業後、30年、40年経ったからハッキリとしてくる差です。
杉浦先生は、地方都市での規模が大きな病院の承継を選択したことで、この不動産でのメリットも引き継いで開業されたことになります。
杉浦院長: テナントスタートは元手の資金がなくても開業できるので悪いことではないと思います。開業後いきなりは不動産を買えないので、勤務医にはテナントスタートの選択肢しかないとも言えます。
私はこの事業承継を知り得て、地方都市での開業を選択したので、病院建物、自宅も含めて譲り受けることができました。前院長から「借金して土地を買うことは、長い目で見ると、10年間貯めて買うものを銀行融資で前借りして買うこと。これから頑張って働いた分、その返済に充てられるので、それは借金しているのではなくて、貯金しているのと同じことだ」とのアドバイスをもらっていましたので、駐車場の土地購入の時も即決できたのだろうと思います。
Q: この不動産コストについては、院長にも、勤務医にもあまり知られてはいません。また、地方都市で規模が大きな病院を引き継ぐメリットとして考えられるのが、獣医師数、スタッフ数が多いが故の働き方にも違いがあると思いますが、この点についてはどうでしょうか。
杉浦院長: これから獣医師5人体制になりますから、働く環境は違ってくると思います。
私も開業して10ヶ月ですが、週2日で休みが取れています。このおだわら動物病院は「健康寿命を伸ばしていく」ことを診療方針に掲げています。これは動物達だけではなく、働く勤務医やスタッフ、そして私に対しても言えることです。
オンオフのメリハリをしっかりさせることで心身のコンディションを整えることができるとともに、安定した水準の診療を提供できるのではないでしょうか。
さらにもう少し勤務医を増やすことができれば、スタッフが長期休暇も取れるようにできます。私は、このおだわら動物病院を「ホワイトな動物病院にしたい」と考えています。
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