One Health の概念と動物病院の経営

公開日:2019年12月25日
この記事はメディカルプラザが制作・監修した「サクセッション - 獣医師向け動物病院の承継開業の情報サイト」上で連載された記事を本サイトへ移行したものとなります。

One Health の概念と動物病院の経営

今の動物病院の売り上げを支えている高齢犬が激減していくことで、これまで通りの病院経営では成り立たなくなっていく。

ヒトの医療でも病気になってからの治療ではなく、病気にならないようにするヘルスケア産業が2030年には37兆円規模の産業になると見込まれているほど、新市場が拡大してきている。

動物病院もまた同じ。

未病、予防医療がこれからの獣医療業界に新たな市場を作り出すと言う、安田獣医科医院・安田英巳先生にその具体策などをうかがった。

動物病院業界にとって厳しい時代

Q:  高齢犬の減少が原因でこれから動物病院業界は初めての厳しい経営環境の時代に入っていきます。

しかし、デフレ時代でもユニクロやマクドナルドなど、業績を伸ばした企業があるように、この動物病院業界でも起こりうるのは、いい病院に患者さんが集中する「二極化」であると考えています。

いい病院とは、スキル面は当然のこと、経営手腕が優れている病院です。

そこで、予防医療で新市場を作るという安田先生のお考えを伺いたいと思います。

 

安田先生: 私は動物病院経営とは別に、「スペクトラム ラボ ジャパン株式会社」という会社を2001年4月に設立し、現在は長男が代表になっております。

この米国スペクトラム社は、様々な検査、ワクチンチェックなどの商材を持っていますが、「この商材は人間と動物の健康は同じであるというOne Healthと結び付ければ日本でも拡がるのでは」と思い、まずは自分の動物病院から導入して、臨床データを作成してきました。

 

One Health|これからの獣医療には、ヒトの健康も入ってくる

Q: このOne Healthについては、201611月に福岡北九州市で世界獣医師会と世界医師会がこのOne Healthに関する国際会議を開いたことで注目が集まりましたが、ペットの病気がヒトに感染するということを患者さんはあまり知らないと思いますし、獣医師のなかでも認識している先生はまだまだ少ないのではないでしょうか。

具体的にどんな事例があるのでしょうか。

歯周病が鍵

安田先生:  まずは、歯周病です。

歯周病の治療としてスケーリングが行われていますが、私はどんな間隔を置いて実施すべきかを考えていた時に「犬を飼っている家族の16%が犬の歯周病菌を持っている」というデータがあることを知りました。

これこそ、「究極のOne Healthだ」と思いました。

そこでヒトにもうつる歯周病菌の悪性度をみる検査として、大阪大学と麻布大学が特許を持っている『fimATET』を導入することにしました。

 

多くの動物病院のホームページでは「犬も家族です」という台詞が目立ちますが、「犬も家族だが、犬の歯周病がヒトにもうつるとなれば、ヒトの家族の健康もまた獣医師が守っていかなければならないのかな」

と思ったからです。

少し詳しく説明しますと、

ヒトでは「ポルフィロモナス・ジンジバリス」という歯周病菌がありますが、

犬でも「ポルフィロモナス・グラエ」という悪性度が高くなる菌がいます。

この菌によって心臓病のリスクが増すという論文があります。

この菌をどのようにして駆逐していくかと考えた時に、このfimATETを実施するためにもこのOne Healthを「目的」にしていくべきだと考えました。

具体的には、患者さんにただ「歯石をとりましょう」と説明するよりも「飼い主さんの家族の健康を守るために犬の歯石をとりましょう」と提案すべきだということです。

ただこのOne Healthの視点から歯周病の治療をきちんとやろうとすれば、動物病院だけが頑張るだけではできず、製薬会社、フード会社、そして麻酔器などの器械メーカーとも連携が必要です。

 

それはなぜでしょうか。

犬からヒトの家族にもうつるということは、獣医師やスタッフにもうつる可能性もあるわけで、獣医師・スタッフの健康面でのフォローも必要ということです。

そのために私の病院ではどのようにしているかを紹介しますと、診療はマスクと帽子、ガウン、ゴーグルを着用してやるようにしています。

またここが重要なのですが、麻酔機は2台入れています。

スケーリング専用として1台麻酔機を導入し、スケーリングはダーティーサージェリーという認識で絶対に手術室では行わず、他の部屋で行うようにしています。

 

さらにはスケーリングを行った獣医師はその日は普通の手術はやらないというように、徹底して感染予防に努めるようにしています。

この結果として、スタッフの歯周病菌の検査を実施していますが、前回調査ではゼロでした。

このOne Healthの発想は大事で、歯周病をコントロールすることは獣医師のこれからの仕事になります。

 

One Healthの発想で、歯周病のコントロールはこれから獣医師の仕事になる

安田獣医科医院、Alphaets株式会社 安田英巳先生

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