動物病院を開業して リタイア を考えるまでの軌跡

公開日:2019年08月15日
この記事はメディカルプラザが制作・監修した「サクセッション - 獣医師向け動物病院の承継開業の情報サイト」上で連載された記事を本サイトへ移行したものとなります。

動物病院を開業して リタイア を考えるまでの軌跡

動物病院を開業して20年が経ってからの リタイア

動物病院を開業してちょうど20年が経ち、70歳前後になったことで、ふと自分の人生を振り返ったことがリタイアのきっかけになりました。

振り返ると、

「ここまでよく苦労してきたな」とか、

「とんでもないこともよく受け止めてやってきたな」

と自分をほめたくなる気持ちと、

獣医師として人様の犬や猫を預かって、命に関わる責任ある仕事をこれからも続けていくのかと思うと、怖くなってしまったのです。

飼い主さんに言われた一言が胸に刺さった

そんな矢先に飼い主さんからこう言われました。

「先生、いつまでやるの」

この言葉にハッとしましたね。

今の自分はこんなふうに見られているのかと。

これは、「私の犬はこれから10年は生きるだろうから、それまで診てくれるのかしら」というメッセージだったのです。

10年後となると、私は80歳代です。

 

その頃にきちんと診療ができているという自信はありませんので、ここがそろそろ潮時かなと感じました。

しかし、そのままやめて廃業してしまうと、飼い主さんに申し訳ない。

動物病院の第三者事業承継との出会い

そう思っていたところに、第三者事業承継という方法があると知って、承継コンサル会社さんにコンタクトを取った時から私のリタイアは始まりました。

事業承継のメリットなどを聞き、「2年から3年はかかりますよ」と言われたので、リタイア準備には十分な時間があるから大丈夫だと思っていたのですが、承継の相手がわずか3ヶ月で決まってしまいました。

これは大きな誤算でした。

動物病院の事業承継がこんなに早く決まるとは思っていませんでしたので、譲り渡してからが大変でした。動物病院の建物と自宅も含めての譲渡でしたので、リタイア後の最初の仕事は、「家探し」でした。

 

獣医師をリタイアしたらやりたいと思っていたこともありましたし、とにかく仕事から自由になりたいと思っていましたから、完全リタイアしました。

本も資料も器材も病院に全部置いて、聴診器だけを持って、新しい家に引っ越しました。

完全リタイアして一番いいと思うことは、「あの子の病気はどうなったのだろうか」とか、「診断は間違っていなかっただろうか」といった悩みがいっさいなくなったことです。

毎日ぐっすり眠れています。

起きるのも自由、寝るのも自由なのですが、朝目が覚めると、何かしなければいけないと思うのは、長年の抜けない習慣ですね。

獣医師リタイア後に考えたこと

健康

そして一番気になるのは、やはり「健康」です。

ここは病院も大病院があるわけではなく、診療所が一軒あるだけという田舎に移住しましたから、もしものことを考えると不安にはなりますが、病気になった時はなった時で、覚悟をすればいいだけですから。

怖い、怖いと思っているとキリがありませんから、70歳までよく生きて来れたなと考えるようにしています。

キャリア

70歳にして人生を振り返った時、本当に波乱万丈の人生を歩んできたなと思いました。吉田拓郎の歌に『ああ青春』という歌があるのですが、まさに私の人生はこの歌詞そのまんま。

獣医科大を出てサラリーマンへ。

外資の製薬会社の営業をして、2年で同業者に転職。

そして50歳で臨床獣医師になり、70歳で完全リタイアです。

 

動物病院をやってみようと思ったのは、もともと学生の時から独立の意思はありましたが、営業の仕事を長年やってきて、45歳の時にひとつの転機がやってきたことです。

「このままこの仕事を続けていて何の意味があるのだろうか」

ちょっとした心の迷いだったのかもしれませんが、もう会社をやめようと思いました。それから開業獣医師になるための道をサラリーマン生活を続けながら作っていったのです。

 

獣医師をリタイアするのはいつ?

「自分自身がやっていることに少しでも不安や迷いを感じたら、すぐにリタイアを決心した方がいい」

というのが私の考えです。

リタイアの時期を決めるのは、早ければ早いほど、後継してくれる人もでてきます。

決断したらすぐに動くことです。タイミングが一番大事です。

リタイアを見極めるポイントを先輩獣医師が解説

その潮時を見極めるポイントは、

「年齢はプラスにはならない」ということです。

①言葉、②物忘れ、③技術低下、④疲れ、

この1点でもマイナスを感じたらリタイアを覚悟した方がいい。

まだまだ平気だというのであれば、平気なように頑張らなければなりません。

「先生、いつまでやるの」と言われた私の経験からすると、飼い主さんたちはきちんと先生の限界を見抜いていることを忘れないことです。

引き際の具体例は?

では、どんな時が引き際なのか、具体的にみていくと、まずは、椅子に座ったままの診療になる時です。

立っていられないのですから、もう体力的に限界であることを知る時期に来ているのです。

 

そして、どの薬を処方するのかが看護師に指示できなくなった時です。

「あれ、あれ」と言い出したら、リタイアのシグナルです。

自分では鎮痛剤のつもりで出した薬が実際はそうではなかったことがある。

これは、要注意段階に入ったということです。

また、1日が終わって、ああ、疲れたなという感じになった時です。

これはもうリタイアしてもいい年になってきたよという身体のシグナルです。

 

こういうリタイアのシグナルがありますから、それを見逃さず、そして気付いたら、即座にリタイアと腹を決めて次の行動をするべきでしょう。

これが自分も、飼い主さんも、ワンちゃん、ネコちゃんもハッピーになれる方法だと思います。

 

人生を振り返ったことがリタイアのきっかけになった

丘の上動物病院 弓木秀次郎前院長(宮城県仙台市)

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