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  • 資金がなくても開業できる

わたしは、今まで2000人以上の獣医師と数多くの獣医科大学生にお会いしてきました。臨床獣医師としての素質を持っておられるのに、資金がない、リスクが大きいとの理由で多くの獣医師が臨床医の道を断念、あるいは開業医の道を断念されています。実は、第三者事業承継というシステムは、実力はあるが資金がないという方には絶好のシステムです。ただ、一つだけが条件があります。それは、場所にこだわらないということです。

 

  • なぜ、資金がなくても開業できるか。

新規開業の場合は、ほとんどの獣医師は金融機関からの借り入れを資金源として開業します。承継開業の場合は、分割払い(院長からの借り入れ)という方法があります。金融面からいうと自己資金と金融機関からの借り入れとは別の第三番目の資金調達方法となります。

 

  • 日本政策金融公庫の制度変更

これまでは、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)からの借り入れは、保証人か担保をつけて借り入れるのが一般的でした。平成26年4月に日本政策金融公庫の制度改革があり、

原則として「第三者保証人はとらない」との方針に制度がかわりました。つまりこれまで、

親の信用力に大きく依存していた獣医師の開業が、親にさほど依存しなくても開業できる時代になったといえます。

 

  • 場所にこだわると承継は難しい

常時30件前後の病院の承継候補者募集の情報をメディカルプラザのホームページで掲載しており、承継(開業)希望獣医師も常時100名以上いるのですが、実際に承継が決まるのは承継(開業)希望者の1割から2割くらいです。8割以上の承継希望者がなかなか

承継が決まらないのは、場所にこだわりすぎるためです。

一流大学の卒業者の多くは中小企業ではなくて大企業に就職します。中小企業だと勤務地が選びやすく、大企業だと勤務地が選べず、全国への転勤も珍しくありません。一流大学卒業者が、勤務地にこだわらない方が多いのはなぜでしょうか。勤務地が選べないデメリットよりも収入、社会的地位のメリットが勝るからです。

獣医師は過去の良き時代に「好きな場所で開業できる」との行動パータンが定着したために現在の厳しい開業環境になってからも、過去の開業パターンを変えきれずにいるということがあると思います。危機感を持って、「好きな場所で開業できると贅沢を言える時代は終わった」との認識が必要だと思います。

 

  • 「住めば都」の発想で大きな病院を承継した事例は多い

一度も行ったことのない場所で承継開業をして大きな病院を承継した事例を上げると次のような事例があります。

勤務地    出身地   開業場所   開業1年目の年商

東京     四国    関西     1憶前後

大阪     大阪    九州     7000万円以上

北関東    北関東   南関東    7000万円以上

南関東    南関東   九州     7000万円以上

四国     四国    関西     1憶以上

 

 

  • 事業承継に反対する院長は少なくない

私が開業相談を受けている若い獣医師から、「勤務先の院長から事業承継をすることに反対されている」との声を聞くことが珍しくありません。成功している院長であればあるほど、現在の厳しくなる時代でも、実力があれば、新規開業でも十分にやっていける、との持論をお持ちであると思います。私が、最近、若い獣医師にお伝えしていることは、「これからの動物病院業界は激変する」ということです。

 

  • これからの動物病院業界は激変する

次の図は、ジャパンケンネルクラブが公表している、犬の年間新規登録数の推移です。

今から10年ほど前に「ペットブーム」が起こりました。このペットブームの最も大きな理由は、団塊の世代(当時の50代)が子育てが終わったころにペットを飼い出したことにあると私は考えています。そこで、この団塊の世代がペットの2代目を飼うかどうかが、動物病院業界の将来に大きな影響を与えると私は考えました。

ここ数年、私は少なくても100人以上の繁盛病院の院長にこの点を聞いたところ、

残念ながら、「団塊の世代の多くはペットの二代目を飼わない」との返答でした。飼わない理由は、70代以上の高齢になってからペットの世話をすることが心配との理由です。

団塊の世代は人口が多いだけではなく、経済的にも日本経済の成長の果実を十分に受けている、いわゆるお金を持っている世代なので、団塊の世代がペットの二代目を飼わなくなることは動物病院業界に多大な影響を及ぼすと思います。

 

 

  • 動物病院業界を成長させたペットブームから犬の少子化の時代へ

今の日本は人口が増え続けた時代から人口が減り続ける時代に移り、世の中が大きく変わっている最中です。わが動物病院業界も犬が増え続けた時代から犬が減り続ける時代に

まさに突入しています。人と犬を比べた場合の大きな違いは、その寿命です。人の寿命が

約80年に対して、犬は長くみて14年です。人間社会の5倍以上の速度で犬の減少が進みます。最悪の場合は、15年後に犬の数が現在の半分になる可能性もあるとあると思っています。

 

  • リタイアしたくてもリタイアできない院長は多い

数多くの60代以上のお会いしてわかったことは、リタイアしたくてもリタイアできない院長がかなり多いことです。理由は大きく二つあると思います。

一つは、仕事以外にやることがないという院長が多いことです。ある院長は、「仕事を辞めるのが怖い」とおっしゃっていました。仕事を辞めたら急に老けこみ、また、自分が駄目になりそうで、怖いというのです。当事者にしかわからない苦悩だと思いますが、すべての院長は、「何歳で引退するか」「一生働くか」の選択をしなければなりません。

現在、103歳で現役の医師として働いておられる聖路加病院の日野原重明先生は、著書のなかで、ボランティアの重要性を述べておられます。日野原先生は現役の医師でおられますが、ボランティアの講演や仕事をたくさんしておられます。ボランティアですので、

ストレスが全くなく、大変楽しい時間を過ごしているとのことです。獣医師の仕事はとにかくまとまった自由時間が取りづらいということがありますので、リタイアした後に手にできる「まとまった時間」を何に使うかを考えることは、人生最後で最大の重要課題

といえると思います。

二つ目の理由は深刻です。リタイアした後の十分な老後資金がないからリタイアできないという院長も少なくありません。私が、ある院長から事業承継の相談を受けて、事業承継後に受け取ることのできる資金をプラニングしたのですが、引退後の20年以上の期間の生活費を考えると足りないということがその院長の出された結論でした。老後資金の問題から70歳までは働かざるを得ないという院長はかなりの数おられると思います。

 

  • 事業承継に対する偏見は多い

事業承継については日本ではまだ実例が少ないために、偏見が多いです。

よくある偏見の一つは、顧客を引き継ぐことは難しいとの偏見です。動物病院に来られるペットオーナーは院長と相性が良いので来ておられるのだから、院長が変わればペットオーナーは離れてしまうというものです。

先日も、地方のある金融機関の融資の審査で、事業承継で院長が変われば売上げが半分以下に減ってしまうので、売上維持の事業計画は認められないとの回答があり、融資審査が通りませんでした。また、別の事例では、開業希望の獣医師の勤務先の院長が事業承継に反対して、その獣医師は結局、新規開業の道を選びました。

二つ目の偏見は、売上が減少傾向の病院は院長が変わっても売上は下がり続けるというものです。実際の事業承継では、承継後の売上減少事例よりも売上増加事例が圧倒的に多いです。理由は簡単で、開業したばかりの獣医師は、自分の将来がかかっているので、新患を増やすために必死で努力するからです。実は、売上が増加するか売上が減少するかの

大きなカギを握っているのが新患の数です。動物病院の既存クライアントは、ペットの死亡と飼い主の転居と転院で必ず減少します。どのような病院も、新患数よりも既存クライアントの減少が大きくなれば、患者数が減るのです。

さらに、新患増加の理由はチラシやホームページもありますが、長期的に見れば圧倒的に既存顧客からの口コミが多いです。実は、口コミの元になる既存顧客は新規開業時よりも承継開業時の方が圧倒的に多いので、実力のある獣医師ほど承継開業が有利に働くのです。

三つ目の偏見は、カリスマ性のある院長の病院や地域の有名病院を引き継げば、売上は必ず落ちるという偏見です。一見、的を得た考えのように聞こえますが、実際は違います。

なぜなら、患者さんはいきなりの転院はしないからです。院長が引退した後は、既存患者は、新院長に診療してもらうか、別の病院を捜すか、どちらかの選択を迫られます。その場合に、既存患者は新院長にまず診療してもらい、そこで何か問題があった場合に初めて、典院の選択をすることになります。また、技術的には元院長の方が明らかに優れていても、

承継開業した獣医師が若さをベースにした熱意との総合力で新患を以前より増やす場合が

多いのです。「西川さんが言うようには患者は増えないよ」と何人もの院長に反論されましたが、若さをベースにした開業直後のやる気はベテラン獣医師の技術を凌駕します。

 

  • 病院を残すか、残さないかは院長最後の重要な決断

昨日お会いした院長は次のように言っておられました。「とにかく、自分の創業した病院を残したいとの一心で西川さんに相談することにした。また、現在、二人の子供が獣医科大学にいるのだが、子供に継がすのはかえって子供のためにならないと思うようになった。子供が10年後にもし、開業したいという場合は、その開業をその時に本人のためになる方法で応援するつもりだ」と。私がふだんから思っていることをずばりとおっしゃったので、思わず、本当にそうだと、と心の中で叫んでしまいました。

統計によると、日本で引退する動物病院の院長の約8割以上は廃業されています。その理由は、承継するための努力をされなかったことが大きな理由だと思います。承継できるかできないかの大きな分岐点は、引退する前の早期(できれば5年から10年前)に備するかしないかです。

ある教育家によると、子供をダメにする最も確実な方法は、子供のほしがるものをすべて買い与えることだそうです。逆に、西郷隆盛は「子孫に美田を残さず」との有名な言葉を残しました。地域ナンバーワンで成功されている院長の多くが「開業した時は本当にお金がなかった」とおっしゃることや、子供にそのまま継がせている病院は伸びないケースが多いという事実は、西郷隆盛のことばが現在でも当てはまっていると思わされます。

 

  • 若い獣医師には事業承継は関係ない?

事業承継情報誌は全国の動物病院の院長にお送りしていますが、若い院長から、「私には関係ないから送らないでほしい。」との連絡をいただくことがあります。そのような若い院長のために 30代、40代の若い院長から事業承継の相談を受けたケースをご紹介したいと思います。

一つ目はこんな相談です。「地元での開業が良いと思って開業したのだが、いざ、家庭を持って住んでみると、若い人がどんどん離れていく町であることに気付いた。おかげさまで、開業は順調だが、思い切って都会の場所で開業し直したい」

二つ目は、「開業して7年経つのだが、この2~3年に、立て続けに3件の病院が近くに

できて売上減少に歯止めがかからない。思い切って移転することを考えている」

三つ目は、「開業して5年経ち、非常に順調に伸びている。将来、もう一軒、病院を出したいのだが、事業承継による開業について相談したい。」

四つ目は、「夫婦で獣医師なのだが、今回離婚することになってしまった。今の病院は妻に残し、自分は事業承して別の病院をやりたいので相談に乗ってほしい」

五つ目は「ある院長の娘と結婚して、その院長と一緒に働いているのだか、どうしてもうまくやっていけない。思い切って、義理の父の病院を離れて別の病院を承継することができないか相談したい」

六つ目は「親の病院を引き継いだのだが、どうしても、臨床を一生の仕事にするということに自信が持てなくなった。公務員になろうと思うので、今の病院を譲りたい。」

と、若い獣医師からの事業承継に関する相談は決して少なくありません。

 

  • 第三者事業承継はお見合い結婚に似ている

「承継と結婚は似ている」と言われています。他人同士が出合い、そして、それぞれが人生において重要なパートナーとなることからそう言われるのですが、先日も、こんなことがありました。

承継元の院長と承継先の若い獣医師が出合った後、若い獣医師がなかなか決断ができません。最初の出会いから2カ月くらいたった頃、若い獣医師が院長に譲渡価格について値下げをお願いしたいと希望を出してきました。ちょうど、その頃、全く別の候補獣医師が

承継元の院長と出会うことになり、出あったその日から、お互いに意気投合し、あっという間に契約まで進むことになりました。

第三者事業承継は、動物病院事業の売買ですから、一見ビジネスライクに進みそうですが、私の経験ではそうではありません。出会った他人同士が、心で結ばれるという、まさに結婚に似たドラマが起きているとの体験をすることが多いです。

私は、若い獣医師には、「出会った院長との縁を感じなければ、契約を進めない方が良いとアドバイスしています。」

 

  • 覚悟を決めるということ

開業や承継をする場合に、覚悟を決めることが重要だとおっしゃる院長が多いです。

覚悟を決めるとはどういうことでしょうか。辞書によると「困難なことを予想してそれを受け止める心構えを持つこと」とあります。開業や承継の場合には、何としてもやりとげるという強い意志を持つことが加味されると思います。

動物病院業界が困難な方向に進むことは間違いないので、すべての獣医師に何としてもやり遂げるという、まさに、覚悟、が必要だと思います。

 

  • カルテの価値を過小評価する開業者が多い

売上2000万円、院長年齢60代、開業歴30年、譲渡価格1000万円の承継者募集病院での事例で説明したいと思います。このような病院を紹介した時に、見向きもしない開業希望者が多いです。見た目が古く売上が低いからです。

この病院は、医療器械も古いものが多く、内装工事も古かったのですが、カルテの価値を説明したところ、その開業者はそれを理解されて短期間で契約となり、開業されました。

開業されて1年後にその院長とお会いしたところ、私の予想通り、順調に新患を増やし、

開業1年目の売上は3000万円を超えていました。その後の新しいテナントへの移転が

決定したとのことでした。

新規開業と比べた場合にその差は明らかです。最近開業して、1年目に3000万円の売上を超える開業者は10人に1人あるかないかだと思います。しかも開業資金は3000万円以上かかります。前述の承継開業者の場合は、1000万円の資金でとにかく開業し、医療器械の新規導入と移転は、売上から得られる資金余力でやっていけば、1000万円の資金での開業も可能です。

動物病院の患者さんの増加の理由は口コミが第一ですので、既存の患者さんが多ければ多いほど口コミの効果も大きい。実は、実力ある開業者であればあるほど、新規開業よりも事業承継の有利性が高いのです。

私の経験では、カルテの価値よりも建物や医療器械や設備の価値、すなわちソフトよりもハードの価値を重視する開業者が多いです。

 

  • 成功とは失敗から学び成長すること

先日、リーダーシップ論の世界的権威であるジョン・マクスウェルの本を読んでいて、

感動した言葉があったのでご紹介したいと思います。

「世の中には、成功を求める人が非常に多いが、実現する人は多くはない。実は、世の中の偉大な成功者と言われる人で大きな失敗をしていない人は一人もいない。重要で見落としがちなことは、大きな失敗をした時に、いかにその失敗から学び、成長し続けるかである。」失敗したときの態度で本人の成長が大きく変わることを肝に銘じたいと思いました。

 

  • 平均客単価は上げられる

売上=客数×客単価ですから、来院数とともに、客単価は極めて重要な数字です。

ところが、私は非常に多くの院長に、病院の客単価を質問してきましたが、正確に答えられる院長は2割以下です。

また、自分の病院の価格が、普通か、安いか、高いかかはつかんでおられますが、客単価を上げる努力をしておられる院長はそう多くはありません。

東京都心部でも客単価7000円以下の病院はたくさんある半面、地方都市でも客単価

1万円以上の病院もあります。もちろん、売上1憶円以上の地域の繁盛病院というのを

前提にしています。

私は、事業承継を通して、院長交代の場面に多数立ち会っていますので、患者さんが同じなのに、客単価を20%以上アップし、しかも売上も20%以上アップした事例を多数見てきました。

私の印象では、客単価は院長の考え方によって大きく左右します。動物病院の業界全体の客数は間違いなく減りますので、客単価を上げる努力をするかどうかで、その病院の将来の業績は大きく変わるというのが私の率直な思いです。

2014年10月29日更新