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犬の人口が減る時代に入ったことは獣医師の常識になっていますが、実は現時点では、

犬の高齢化による重症症例と慢性病症例の増加のおかげで、動物病院マーケットはまだ成長を続けている可能性が高いです。

下の図は、1990年から2014年までのJKC公表データによる犬の新規登録頭数(出生数)の推移です。図2は、犬が出生した年から10年後から15年後までの数字を単純に足し込んで、10歳から15歳までの犬の合計数の推移を見るようにしたグラフです。

このグラフによると、10歳から15歳までの犬の人口のピークが2017年となっています。10歳から15歳までの犬は、重症症例と慢性病症例の多く、動物病院の売上に最も貢献していると考えられますので、この犬の今後のトレンドは重要な意味を持っています。

これまで、少なくても20年以上増加し続けた犬の重症・慢性病症例が2017年から

少なくても15年以上は減り続ける可能性が極めて高いと言えるからです。

 

 

今こそ、事業承継の好機

本誌が提案している第三者事業承継を進めなければならない理由もここにあります。

症例数があるときに事業承継したほうが、症例数が大幅に減ってから事業承継するよりも

事業承継の成功率は大幅に高まるからです。

本誌をお読みの院長に事業承継について真剣に考えていただければ幸いです。

 

若い獣医師は将来構想を真剣に考えなければならない

一方で、獣医科大学で臨床志向の学生さんや若い臨床獣医師は、自分自身の将来構想について真剣に考えなければならない時代が来たと言えます。臨床獣医師になれば食べるのには困らない、と言える時代が続けば良いのですが、人口統計は最も予想しやすい未来と

言われており、獣医師の大多数がやっていける時代は続かない可能性が高いです。

 

 

 

 

第三者事業承継の反対者五つのケース

  • 承継開業者夫人の反対

承継開業希望者が男性の場合に、承継開業希望者者夫人が開業場所に反対するケースは、少なくても承継者全体の20%はあると思います。せっかく、承継希望者を院長に御紹介して本人同士は良い感じだったのが、承継開業者夫人の反対で破談になってしまいます。

理由を聞いてみると、「大都市に住みたい」「その町が好きになれない」「病院と住居が同じだから」「都心部は好きではない」「実家から遠い」など、事業とは関係ない理由です。

 

  • 承継開業者または承継開業者夫人の父親の反対

最近は、父親が子供の開業に口出しするケースは以前と比べてかなり増えてきました。

反対理由を聞いてみると、「不動産がついているならわかるけれども、経営権だけでは譲渡代金が高すぎる」「院長が変わったら患者さんは減るから承継はやめた方が良い」「新規開業するなら資金出してやるから承継はやめろ」「行ったこともないエリアで開業するのはやめた方が良い」など、事業に関しての理由が多いのですが、父親が何かの先入観を持っているケースが多いです。

 

  • 承継開業者の勤務先院長の反対

開業するならゼロからすべて自分の力で病院を大きくするのが良い。他人の病院を引き継ぐなどと考えるのは、実力のない獣医師がすることで、君は実力があるから新規開業で

やるべきだ。勤務先の院長が大きな病院まで成長した場合によくあるケースです。

 

  • 承継元院長夫人の反対

夫婦はお互いに相手のことが最もよくわかっていればよいのですが、引退したい院長の

気持ちを院長夫人がわかってくれないとのケースも少なくないです。今は、平均寿命がかなりのび、特に女性は90歳まで生きるのが当たり前になっています。院長夫人が仮に

60歳だとすれば、90歳まで30年もあります。1年に400万円の生活費が必要だとすると、30年で1憶2000万円の生活費が必要です。サラリーマンなら、厚生年金と

企業年金があるのである程度は安心ですが、院長には年金は少なすぎます。女性は男性よりも生活費に関しては極めてシビアなので、院長夫人の反対で院長が引退できないケースは少なくないです。

 

  • 承継元院長の顧問税理士の反対

院長が病院の承継を考えるときにまず相談する相手は、自分の顧問税理士であることが

一般的です。ところが、院長が病院を承継すると顧問税理士にとっては、顧問先が減ることになるので、動物病院に限らず、第三者事業承継に反対する顧問税理士が多いというのは、定説になっている。もちろん、中には、親身になって事業承継の相談に乗ってくださる顧問税理士もたくさんおられるので、この点は、顧問税理士の真意をよく考えて相談する必要があります。

 

 

事業承継から見えてくる価格戦略

  • 平均単価の低い病院と高い病院

動物病院の診療はすべて自由診療ですから、動物病院の診療価格には病院によってかなりの開きがあることは良く知られていることです。動物病院の年間売上をその病院の年間来院数で割った金額を平均単価と呼びますが、私の知る限り、一次診療に限れば、最も低い病院で3000円、最も高い病院で2万円くらいだと思います。

先日、ある地方都市で、売上1憶円規模の二つの病院から事業承継の相談を受けました。一つの病院の平均単価は6000円程度、もう一方の病院の平均単価は9000円でした。

売上はほぼ同じなのですが、院長報酬が大きく異なります。一つの病院の院長報酬は、

約1000万円、もう一方の病院の院長報酬は2500万円以上です。どちらの病院の院長報酬が高いかは、ほとんどの院長はお分かりだとおもいます。平均単価の高い方の病院です。

ここで、価格戦略についての、一般的な定説を御紹介します。商品で差がつけづらい時には低価格戦略は有効、商品で差がつけやすいときは、低価格戦略はさほど有効でないと言うものです。動物病院の提供する診療サービスは前者の商品に差がつけやすい方に分類されるのが一般的です。

さきほど、御紹介した事例のように、平均単価が高い病院の院長年収が平均単価の低い病院の院長年収よりも圧倒的に高いということは断言できます。

 

  • 動物病院の平均単価の伸びしろ

今後の犬の人口の減少時代においては、平均単価を上げることが動物病院経営の根幹にかかわる重要課題となってきますが、そのヒントが事業承継の現場にあります。動物病院の診療内容は院長が誰であるかによってかなり違うことは良く知られていると思います。

承継予定者が前院長の診療を見たときに、前院長がやっていないことが必ず見つかります。

外科、内科、循環器科、腫瘍科、皮膚科、眼科などの専門分野は当然のこととして、入院看護、往診、送迎、予約制度、会員制度、電話フォロー、DMなど様々な方向から、平均単価を上げるための具体策が見つかります。新院長の工夫によって、承継後に平均単価が

下がるケースはほとんどないと思います。このことは、あらゆる病院が平均単価を上げる可能性を持っているということができると思います。

 

  • 院長収入が高いことは健全経営のバロメーター

一般企業においては、利益が出ていないのは、罪悪と言う言葉があります。利益が出ていない企業は、利害関係者に迷惑をかけるからです。動物病院においては、利益が院長の収入に溶け込んでいますので、院長収入が低いのは罪悪と言い換えることができると思います。業界マーケットは現時点では、まだ成長していますので、今の段階で院長収入が低いと将来、利害関係者に迷惑をかけるようになるリスクが高まります。院長収入が高いのは健全経営のバロメーターであるとの意識を持つことが大切だと思います。

2015年10月29日更新