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「高くても良い獣医療」への覚悟ができるかどうかで病院の将来は決まる

~事業承継事例から見えてくる更なる可能性~

 

動物病院業界は2018年からいよいよ「右肩下がり」の時代に入っていきます。

これは、小動物医療の獣医師が初めて経験する出来事になります。

今後は、業界全体の来院数と症例数が長期的に減少し続けていくことになります。

そのため、すべての獣医師が「これから先、どうしたらいいのか」を問われてくることになります。

その有力な対処法として、私は「高価格化経営への転換」を提言します。

この参考となる事例は事業承継と米国にあります。

 

 

 

3年前に指摘した、「犬の少子化」

本誌が、動物病院業界にこれから起きる変化として、「犬の少子化時代突入」を取り上げたのは、2014年の第4号でした。その後も、データ分析をもとにして「動物病院業界の変化が2018年から始まる」として情報発信を続けてきました。

みなさまは自分の病院を取り巻く経営環境の変化にお気づきでしょうか。

この変化とは、「これまで右肩上がりで業績が伸びてきた動物病院業界がこれからは右肩下がりになっていく」というものです。

なぜ、経営環境が「右肩上がり」から「右肩下がり」になっていくのでしょうか。

その第一の要因は、犬の頭数の減少です。これまで30年以上にわたって犬の頭数は増え続けてきましたが、すでに減少傾向に入っています。

犬の頭数が減っているのに売り上げに変化が感じられないと思われている院長先生もおられるでしょうが、それは、「医療費がかかる高齢犬が増え続けてきたからである」と私は分析しています。

しかし、その高齢犬が今年、2017年をピークに減少傾向に入ります。

10年後の2027年頃には、犬の頭数は今後さらに2割減少し、高齢犬は4割が減少すると私は予測しております。

これが動物病院業界が「右肩下がり」になる2大要因ですが、そこで最も恐れるのが、「患者数が減ることで、多くの院長が生き残り策として値下げ競争に走る」といった事態です。

この値下げ競争がどのような結果をもたらすのかは、他の業界をみれば、明らかです。例えば、スーパーマーケットやディスカウントストアの台頭で危機感を感じた商店街が同じように値下げ競争をした結果として起きたのが、全国に広がる「シャッター商店街」です。

動物病院の値下げ競争は絶対にしてはならないのです。

 

この2大要因に加えて、病院経営におけるマイナス要因が4つ、あります。

まずは、全国の多くの有名病院の院長先生自身が高齢化を迎えて行くことです。

2つ目は、人手不足による採用難です。

企業病院や大病院に入りたい人が増える一方で、小規模病院は深刻な採用難に陥っています。小規模病院では、どんなに忙しくても自分1人で全てをやらなければならない、そしてそれがいつまで続くのかと不安になって承継リタイアを決断された院長先生も増えています(5章参照)。

3つ目は、労働時間の残業規制や人手不足から人件費が上がっていくことです。

大手広告代理店・電通の社員が過労自殺したことをきっかけにして残業規制が厳しくなり、労働環境の改善が国全体で図られています。加えて、開業がリスクになってしまった今、長く勤める勤務医が増えています。勤続年数が長くなれば、その分、給与は上げなければなりません。また人手不足・採用難ですから給与アップでの引き留め策も必要になっています。

こうした理由から人件費は確実にアップしていく傾向になっていきます。

そして4つ目が、獣医療の進歩により設備投資費用がアップしていることと、建物投資も大幅にお金がかかるようになってきていることです。

これら6つの要因をまとめると、「これから入ってくるお金、売り上げは減っていくが、逆に出て行くお金、コストは増えて行く」ことになっていきます。

売り上げを上げるために値下げをして来院数を増やすという発想は、これからの時代は最悪の発想で絶対にやってはいけません。

 

では、この「右肩下がりへの環境変化」に対応するにはどうしたらいいのでしょうか。

そこで私は、「良質獣医療・高価格化経営への転換が有力な対応策になる」と考えます。

つまりは、「価格は高いけれども、良い獣医療を提供する病院になる」ことを目指して経営方針の刷新をすべしという提言です。

「価格を上げることなどできるはずがない」と考えられている先生が多いかもしれませんが、「事業承継で開業された院長のほぼ100%が客単価アップに成功、90%以上が売り上げアップに成功している」という、データがあります(表データ「承継動物病院の承継前後実績比較表」を参照ください)。

高価格化経営をするためには、もちろん、獣医療の質の向上にも取り組まなければなりません。

第2章では、この客単価アップに積極的に取り組まれてきた院長先生の事例を紹介していますので、ご参照ください。

 

 

東京都内の新規開業の異常な増加

東京都では、新規開業件数が依然として増加傾向にあります。

年平均85件以上のペースで、この6年間で実に504件が新たに開業しています。

私は毎週のように開業希望者の無料個別相談を実施して開業相談をお受けしていますが、東京(首都圏)でのこの新規開業の件数は驚くべき数字であると捉えています。

東京(首都圏)で、これだけ新規開業が多いのには理由があります。

1つには、東京都(首都圏)出身の獣医師が増えていること。

もう1つには、獣医師夫人がブランド化した東京(首都圏)での開業を希望していることです。

東京(首都圏)は人口が増えているので、動物病院のマーケットもこのまま増え続けていくだろうと考えられているのでしょうが、これは大きな間違いです。

東京都内の多くの院長先生からヒアリングすると、「犬の少子化によるマーケットの縮小は東京でも変わらない」と言います。

東京都(首都圏)内での動物病院の経営破たんが増えるのはもはや時間の問題であろうと私は捉えています。

 

 

私がこの事業承継を勧めている理由

このまま東京(首都圏)で新規開業が増え続けると、どうなるのでしょう。

新規開業者は、当然ながら新しい飼い主さんを増やさなければ病院経営は立ち行かなくなってしまいます。それは、新たにペットを飼う人たちが減ってきている以上、他の病院の飼い主さんを獲得していくしかありません。そのためにやることは決まっています。

「安売り」です。

しかし実際には、この「安売り」をするから経営が立ち行かなくなってしまうのです。

それは、病院経営にとって大事な「利益」を奪い去っていくからです。

これから「右肩下がりの経営環境」になって、一斉に値下げ競争が始まれば、それは動物病院業界全体にとって大変な悪影響を及ぼします。

「安くて良い獣医療を提供することが獣医師の使命である」と考えておられる先生が日本では少なくないのですが、これは、30年前の米国でも同じでした。

「米国の客単価は日本と比べてはるかに高い」と思われているでしょうが、30年前の米国は今の日本と同じ。安くて良い医療をという獣医師がいました。

それが変わったのは、一体何があったのでしょうか。米国の獣医療コンサルタントから聞いた話を紹介しましょう。

「米国でも以前は安くて良い獣医療を提供することが獣医師の使命だという考え方がありましたが、ある獣医師のリーダーが「良い獣医療であることの証しが高い客単価であるから、獣医師は高い客単価を目指すべきではないか」と主張し始めました。

この主張は大きな批判にさらされることなく、受け入れられていって、この時から「客単価の高い獣医師は質の高い医療を提供している」という意識に多くの獣医師が変わっていったということです」。

この客単価を上げるにはこの事業承継が有用であることは、私のこれまでのコンサルタントの実績からみて明らかな事実です。承継開業のほぼ100%の院長先生が客単価アップに成功されたことはすでに述べた通りです。

 

新規開業希望者がこの第三者事業承継を知って、この事業承継で開業する獣医師を増やすことが、「安売り」を避けることにもつながり、動物病院業界全体にとってもメリットが大きいと考えて、私はこの事業承継を勧めています。

 

 

追い風が向かい風に変わる時に問われるのは何か

私はこれからの対応策として「客単価を上げる」ことを提案していますが、これは単なる「値上げ」ではありません。

「医療技術やサービスの質と量を上げることが、結果として収入増に結びつく」ことを知って頂きたいのです。

動物病院はこれまでペット市場が伸びてきたので、病院数も、売り上げも伸びてきましたが、来年、2018年からは右肩下がりのトレンドに入っていきます。

追い風だったのが向い風に変わる時に問われてくるのは、「これからどのように病院を経営していくのか」という、経営方針です。

この「経営」について、どんなイメージをお持ちでしょうか。

恐らくは、「経営=金儲け」という、マイナスイメージではないでしょうか。

お金をいかにして稼ぐのかを考えるのが経営であるとのイメージが強いでしょうが、実際に考えるべきは「お金」ではなく、患者様のために何ができるのかであったり、勤務医・スタッフのために何ができるのかを考えるのが、この「経営」の役割です。

宅配便を始めたことで有名なヤマト運輸の小倉昌男氏の有名な言葉に「サービスが先、利益は後」という言葉があります。

「経営」とは、病院をこれからこうしていきたいというビジョンでもあり、人を採用したり、育成したり、定着させたりする人事が重要です。

これから経営環境が右肩下がりに変わることは、獣医療の知識、ノウハウ、スキルの他に、経営についての知識、ノウハウ、スキルも問われてくるということです。

第4章ではこの承継開業によって自分の思いを現実化させた若い獣医師たちを取り上げています。

それぞれの先生が語っているのは、「自分はこれから病院をこうしていく」という、経営方法、ビジョンそのもののお話です。

これからどうしようかと考える時の1つのヒントにしてください。

 

※        ※        ※

セブンイレブンを日本で始めた、鈴木敏文氏の有名な言葉に「経営は環境適応業である」という言葉があります。

世の中は絶えず変化しているので、世の中の変化に適応できるように商品、サービスを変え続けなければ経営を継続することはできないという考え方です。

これから10年間の業界の大変化に対して、どれだけ適応していけるのか。そのためのキーワードは、「高くても良い獣医療を提供すること」だと思います。

2017年8月30日更新