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医者が初めて語る、健康寿命を伸ばす秘訣

山梨大学医学部・大学院社会医学講座教授
山縣 然太朗 先生

Q1 山縣先生は医師として、健康寿命がなぜ山梨県で高いのかの理由を初めて解明されたとお伺いしております。健康を害する院長が少しでも減ればと思いますので、予防医学や生活習慣の見地からどうすればいいのか、アドバイスをお願いします。

「食事摂取、排泄、爪切りのいずれもが援助の必要がない人」というのがこの健康寿命の定義ですが、平均寿命からこの健康寿命を差し引いた年数が介護や入院が必要な「不健康期間」になります。
 2015年、この健康寿命調査で、山梨県は男女ともに日本一でした。さらにWHO(世界保険機構)の調査では日本がトップでしたので、山梨県は世界ナンバー1の健康長寿県となりました。そこで、健康であるためには3つの予防があります。1次予防は、「健康増進」です。病気にならないようにすることです。2次予防は、「早期発見、早期治療」。ガン検診や健康診断を受けましょうということ。そして3次予防とは、「重傷化の防止」で、病気になっても元のようにきちんと仕事や生活ができるようにする、社会復帰やリハビリです。

 

 

Q2 もう1つ、メンタルヘルスについてですが、うつなどになって仕事ができなくなる先生が多くいます。ストレスについて教えてください。

メンタルヘルスで治療を必要する人は過重労働などが原因で増えています。そのため、労働安全衛生法でストレスチェックを健康診断で実施することが2015年12月から義務化されました。
 このストレスチェックで何をみているかと言えば、「過重労働の状況」と「支援の状況」をみています。
 過重労働の状況とは、「時間管理」です。自分で自分の仕事をコントロールすることを「ジョブコントロール」と言いますが、他者にやらされているか、自分でやっているかで、ストレスは全く違ってきます。
 そして仕事でのやりがいを持てるか持てないかのポイントとなるのが、「支援」です。この支援とは、仲間と上司です。一番大切なのは、「相手を認めること」です。
 人間が他者のために働く時には、脳の中の「報酬系」と呼ばれる組織が働きます。食欲や金銭欲などの欲望が満たされると、この報酬系が活発化します。人間関係でこの報酬系を働かせたいと思ったら、認めてあげる、ほめてあげることですね。
 上司が部下をきちんと認めたり、ほめたりしている職場やコミュニティーは、みんながやりがいをもって仕事をしていることになります。

 

 

Q3 これは動物病院内でのスタッフのマネジメントとして役に立つと思いますが、院長はその動物病院のトップであり、経営者です。その院長にメンタル面で問題があるのは、1つには、患者さんとの関係もあるのではないかと思われるのですが。

学校の先生も医師も同じだと思いますが、最近では「モンスター」と呼ばれる両親や患者さんがいるとのことですが、そういう人がいれば、それだけで疲弊しきってしまいます。「先生、ありがとうございます」という感覚ではなくなってきていて、「私はお客様で、お金を出しているから当然だ」という言葉づかいや態度を普通と捉えている人が増えていると言われています。
 院長のストレスを考えた時、これが一番のポイントのような気がしますね。
 人間の病院の場合は、開業医だと自分でその対応をしなければなりませんが、大きい病院では事務が対応します。医師は医療行為のみに集中できるので、開業医と勤務医とでは患者のクレーム、トラブルからのストレスは全く違いますね。
 動物病院の場合も、開業医だと自分でやるのでしょうが、その対応をするのは無理です。日々の診療もできなくなりますから、そういう相談を受けてくれる人を作ることがストレス対策としては大事になってくるのではないかと思いますね。

 

 

重症後も同じ働き方をするのは

 

 

Q4 一度重症の病気で手術、入院しているのに、その後は以前と同じ働き方をして亡くなられた先生がおられます。この点についてはいかがでしょうか。

これは、3次予防の「重症化の防止」ですね。日々の仕事が再びその病気を引き起こした同じ状況に置かれるわけで、本来ならば、仕事量を減らさなければなりません。そのためには主治医の先生と相談しながら、生活習慣を以前とは変えることです。
 そして他の病院や先生と連携していくことが大事でしょうね。

 

 

Q5 まさかの時、困った時に応援してくれる仲間をつくっておくことですね。

健康であるためには「社会」との関わりを抜きにすることはできません。
 これを「ソーシャル・キャピタル」と言います。「規範」、「信頼」、とか、「ネットワーク」と言い換えられるのですが、これは2つの要素から成り立っています。
 1つは、「ソーシャル・ネットワーク」、ヒトとヒトとのつながりです。孤立していると他者に自分のSOSも発信できなくなります。まずは他者とつながっていることが大事です。
 もう1つは、ソーシャル・コヒージョン。団結力です。この山梨には「無尽」というコミュニティー組織があります。獣医師で言えば、獣医師会のようなものです。この無尽に自分が属していることが安心感につながったりしています。

 

 

Q6 山梨のこの無尽は、山梨が健康寿命世界ナンバー1であることとも密接な関係があるとのことですが、無尽とはどういうものなのでしょうか。

昔は「無尽講」と呼ばれて、皆からお金を集めて、仲間が何かあった時にはそのお金を使う、助け合いの組織でした。他の地域では「頼母子講(たのもしこう)」と呼ばれたりしています。
 この無尽は山梨が健康寿命世界ナンバー1であることと関連するのですが、自分が嫌で参加しているか、自分から積極的に参加しているかで、健康面にプラスになるかならないかが分かれてくるようです。
 私が研究で明らかにしたのは、まさにこの点で、無尽に入っているから健康であるわけではなく、どういう形でこの無尽に入っているかが重要なのです。楽しんでいると、元気で長生きになります。

 

 

年に1度の健康診断を

 

 

Q7 健康面で気をつけないといけない年齢についてお教えください。

健康診断を受けた方が良いという国の目安ですが、「メタボ健診は40歳以上」、「大腸、胃がんは40歳」、「女性の子宮頸がん、乳がんは20歳から」となっています。これは、早期発見、早期治療という観点からです。
 がんにしても、生活習慣病にしても、悪い病気ほど、前兆がない。前兆がわかりません。例えば、胃潰瘍は早い時期から痛くなりますが、胃がんはほとんど痛みがないことが多い。気付いた時には手遅れになっている。脳梗塞も、心筋梗塞も同じ。頭や心臓が痛くなった時にはすでに梗塞を起こしている。
 悪い病気ほど、突然にやってきます。
 動物病院の院長は日々お忙しいので、なかなか健康診断を受けることはできないのではないかと思いますが、年に1回でいいですから受けておくと、安心できると思います。

 

 

Q8 山縣先生のお父様は85歳で現役の獣医師をされておられます。ハードワークのはずなのに、健康。その秘訣はどこにあるのでしょうか。

本人は健康には気を付けていますね。食事や規則正しい生活をしようとしています。  介護で家族が一番困るのは、「認知症」です。生活習慣病予防とか重症化予防についてはしっかりとやっていても、最後に困るのはこの認知症です。
 この認知症にも予防法があります。それが、「生き甲斐」なんです。「自己実現」と言ってもいい。この生き甲斐は、趣味でもいいのですが、「自分の役割を持つこと」です。

 リタイアすると、元気がなくなったり、急に病気になったりするのは、自分の役割がなくなるからです。女性が認知症になるのも、家庭内での役目がなくなるからです。
 この生き甲斐につながる、一番いいのは、「仕事」です。
 山梨の人が健康なのは、無尽があるだけではなく、農業という仕事があるからでしょうね。会社勤めを終えても、無尽と農業で自分のやることがある。
 私は大学勤務ですから、定年があります。その時に全部やめてしまうと、私の方が危ないでしょうね。

 

 

Q9 人間の医師の場合、その科によって先生が病気になったり、メンタル的に支障をきたしたりすることはありますか。

開業している先生の方が早く亡くなる人が多いのは、獣医師先生と同じかもしれません。加重労働、いわゆる、働き過ぎです。
 勤務医は患者を診るだけですが、開業医となると、患者を診るだけではなく、病院を経営しなければなりません。ストレスはまるで違います。
 開業するとなると、自分が好きなことだけをやっているというわけにはいかないからです。
 こうして開業医の先生が病気になったり、亡くなったりすると、その地域の人たちが困るのも、獣医師先生と同じです。地域の医療を守る意味からも、後継者を探すことは人間の病院でもこれからますます大事になっていくのでしょう。

 

本日は大変貴重なお話をありがとうございました。